わたり終えるか、転げ落ちるか
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
昔々、「嘘」について何か書こう、としたら、「理想の女子」について書いてしまいました、というお話。

 話題も尽きてしまって、そろそろ電話を切る頃かなと思ったちょうどそのとき、急に思い出したかのように彼女はこう言う。

 「ねぇ、飛ばすとその周りに綿菓子ができていく竹とんぼがあるのよ。昔はそれを飛ばして遊んでは近所の子たちとその綿菓子を分けて食べたものよ。今度あなたも一緒にそれで遊んでみない?」

 僕は少しだけ間を置いてから、こう切り返す。
 「そんなこと言ったら僕だって、乗っているうちに綿菓子ができていく竹馬でよく遊んでいたよ。町内なんて一周したらさ、近所の友だちみんな行列作って僕の後について来るんだ。あれは良い眺めだったよ」

 彼女の方は全く間を置かずに、とても明るい声で僕に提案する。
 「じゃあ今度、一緒に遊んでみようよ。竹とんぼと竹馬で」
 「いいよ」
 僕は意識して即答する。
 「場所は多摩川のほとりでどう?」

 言うまでもなく、僕は嘘をついていた。もちろん彼女も嘘をついていると思ったから、適当なノリで流そうと思ったのだ。僕はその時二人の間で交わした会話を、「嘘を冗談として、冗談のまま楽しむことができる仲になってきた」というふうにしか解釈しなかった。話すことがなくなったら、たとえ嘘でも話題をこしらえる。そういうのも決して悪くないじゃないか。

 僕はベッドに入って眠りにつく前に、綿菓子ができていく竹とんぼと竹馬のことを少しだけ想像してみた。飛んでいるうちに綿菓子がまとわりついてくる竹とんぼはともかく、竹馬の方は、乗っている人の手足がねとねとしてくるだろうから、結構気持ち悪いだろうな。

 僕は思わず、手足がねとついていないことを布団の中で確める。大丈夫、ねとついていない。

 僕は彼女が、竹とんぼの嘘に対してどのようなオチを付けてくるのかを予想しつつ、その一方で自分がついた嘘に対するオチも考えた。まぁ、このあたりで良いだろうというアイデアが思いつくと、急に眠気が襲ってきた。そのとき、僕は体中にまとわりついた綿菓子をシャワーで落とそうとしている夢を見た。


 翌週の土曜日、約束の場所に十分ほど遅れて到着すると、彼女はすでに川辺にいて、そして彼女の頭上には、ふかふかの綿菓子がくるくると回っている。まるで今日の完ぺきな青空の中で唯一、場違いにも浮かんでしまった一片の雲のように。

 やがて落下する綿菓子を慣れた手つきでキャッチする彼女は、土手にいる僕の姿を確認し、こう叫ぶ。
 「遅かったじゃないー!」

 僕はバトミントンセットを片手に、本来言うはずだった言葉をごくりと飲み込み、ただその場に立ちすくむ。

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://esk.blog9.fc2.com/tb.php/1060-ce19321d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。