わたり終えるか、転げ落ちるか
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大分前に見た夢をもとに書いた、「きちんとキレてたら」っていうとっても短い小説があるのですが、最近またもやこれと似たような夢をよく見ます。自分で見たり書いたりしたものについて、こんなこと言うのも何なのですが、これ、結構怖いんです。どういう心境のアラワレなのでしょう。うーむ。

 乗り換えのために、いつもの駅で僕は下車する。降りる前に聞いた車内アナウンスによると、乗り換えの列車は諸事情により数十分遅れて到着するとのことだった。駅の案内表示を確認してみると「通過」と出ている。何だ、通過列車も一本あるのか。到着にはまだ大分時間がかかりそうだな。

 駅のベンチには誰も座っていなかったが、僕は立って待つことにした。あぁ、今週も疲れたなぁ。土日くらいはゆっくりしようと思ったけれど、どうやらそれも無理みたいだし、それならばせめて今晩、今晩だけは、仕事のことは忘れて家で軽く一杯やるとするか…

 ふと気が付くと、一人の少年が、僕の傍に立っている。

 その少年は全身を、ぷるぷる、ぷるぷると震わせている。顔はずっと下を向いていて、右のこぶしをぎゅっと握り締めている。服は紺のブレザーで、左手には灰色の学生かばん。中学生?それとも高校生?

 やがて彼は意を決したように一度縦に頭を振った後、僕の左頬をぽかりと殴る。スピードはそれほど出ていなかったが、当たりどころが悪かったせいだろう、僕は口の中を軽く切ってしまう。

 当然、僕の中に激しい怒りが立ち込めてくる。僕は自分のかばんを足元に置き、彼のむなぐらをぐいっと両手で掴む。おい、何だっていきなり僕を…

 少年の後方から大きな笑い声が聞こえてくる。そちらに視線を移すと、彼と同じ制服を着た男子生徒が全員で…一、二、三…計五人、こちらを見てけらけらと笑っている。僕を殴った少年は相変わらず、全身を、ぷるぷる、ぷるぷると震わせている。その振動が両手をつたってくる。

 「…そういうことか。もういい。行け」

 僕の彼に対する怒りは、急速に萎んでいく。そして少年は何も言わず、下を向いたままくるりと後方に向きを変え、とぼとぼと歩き出す。「あれ?」「おいおい」という声が舌打ち混じりに連中の方から聞こえてくる。
 「キレねぇのかよ、ちっ」

 あの少年は結局、僕を殴るよう彼らに命じられていただけだったのだ。罰ゲームか?それともおそらく普段からいじめられっ子の彼が、面白半分で無理強いされた度胸試しか?いずれにしても、それはとても、とてもくだらないことだ。いつの時代も、あの年頃の連中の考えることなんて同じようなものだなぁとつくづく思う。力の弱い同級生や、僕のようなふがいない中年サラリーマンを見つけては、困らせたり、怒らせたりして楽しんでいるのだ。全く趣味の悪い遊びだ。けどな、覚えておけ。お前たちの目論見通りには、決してならない大人だっているのだ。お前たちの目論見を、全て見抜いている大人だっているのだ。いいか、それがわかったら二度と力の弱い同級生を見つけてこんなくだらないことを…

 さっき僕を殴った少年が、連中と何かを話し合った後、いきなり線路側に突き飛ばされる。五人のうちの誰がやったのかはよくわからない。少年はふらふらと力なく線路内にどさりと落ち…そしてそれとほぼ同時に快速電車が通過する!その光景を目の前で見た女性客が、たまらず大声で悲鳴を上げ、駅構内はたちまち騒然となる。次々と重なる、乗客の声、駅員の声、アナウンスの声、足音、着信音、サイレン音。

 「…あんたがきちんとキレねぇから悪いんだよ」

 連中のリーダー格の少年が、こちらにゆっくりと歩み寄りながら、僕にそう告げる。

 「…あんたさえきちんとキレてたら、あいつもあんな目に合わなくて済んだんだよ。あんたが、あんたが悪いんだよ」

 …何を言ってるんだこいつは?お前たちの悪ふざけのせいで、こんな大変なことになってしまったんじゃないのか?「きちんとキレねぇから悪い」だと?そんなこと、よく言えたもんだ。そんな言い分が通用すると思っているのか?最近の若い連中はこんなに世の中を甘く見ているのか?それとも…

 「…そうよ…あなたが…あなたが悪いのよ」

 悲鳴を上げた女性が、いつのまにか僕の隣に来てそう囁いている。続いて大声でこう叫ぶ。

 「あなたがきちんとキレないから悪いのよ!」

 僕は驚きで声も出ない。さらに僕は、何者かに背後から左肩をがつっと掴まれ、無理矢理に振り向かされる。そこには僕より大分年輩で、背は高く、眼鏡をかけた白髪の紳士が、ものすごい形相でこちらを睨んでいる。

 「君がきちんとキレないから悪いんだよ」

 気が付くと僕はすっかり、人々の群集に取り囲まれている。彼ら、彼女らはこぞって、僕がきちんとキレなかったことについて、実に様々な言い回しを使って野次を飛ばしている。一体、一体何がどうなってしまっているんだ?

 「駅構内の皆さまにお知らせ致します」
 構内アナウンスが入る。群集が一旦、静まり返る。

 「ただ今、当駅で人身事故が発生致しました。彼がきちんとキレないから悪いのです」

 群集は先の喧騒を一気に取り戻す。遂には胴上げのような格好で、僕は群集に持ち上げられてしまう。いつもより近い駅の天井を見つめながら、僕はもうすっかり抵抗を諦める。

 僕は、もうすっかり、抵抗を諦める。

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